2016年09月29日

若葱茶話その四「カナールの窓辺」

若葱茶話も4回目となります。いよいよ10月から新しい動きのツアーが始まるとのことで、
でも特にぽんちゃが不調(原因不明で声が思うように出せないとか。Abema TVで見る限りは
声の響かせ方の問題のようですから、ボイトレの先生に相談だと思います)だそうで、それを
元気づけたいという狙いも、今回に関してはあります。この曲のレコーディングの頃は
絶好調だったの思いますのでね。それでは、お楽しみください。

     ×     ×     ×

この曲を初めて聴いた時は、まだ彼と一緒にいる時だった。だからなのだろう、「幸せそうな曲だね」というトンチンカンな感想を口にしてしまったのだった。本当は切ない失恋の曲だったのに・・・。

Negiccoのことは彼経由で知った。彼がファンだったから私も、という感じだったが、最初の頃は正直そんなにピンとはきていなかった。でも彼の好きなものだから、と思って付き合っているうちにだんだん好きになっていった。でも彼の方は私が熱心になるまでNegiccoについてはアツく語ったりはせず、私は彼のそんなところが好きだったように思う。

彼と付き合ったきっかけは、後輩からの紹介だった。彼は後輩の会社の上司で「絶対に合うと思うから」と引き合わせてくれたのだった。案の定私はすぐに彼を好きになった。なので私の方からアタックしていったのだが、そんな私を彼はすぐに受け入れてくれた。ほどなく半同棲というか、週末はほぼ彼の家に入り浸っていて、そこからデートに出かけるという形だった。

私はそんなに付き合っている人に影響されるタイプではないんだけども、彼に関しては特別だった。ジャズを聴くようになったのも彼の影響だし(といってもアーチストとかは分からなくて、ただあるものを聴くだけ、なんだけど)読書の習慣もついた。空き時間や移動の時にゲームではなく本を読むようになったのは彼の影響だ。また、水族館なんかに行ってもこれまでは「カワイイね」とかで終わっていたのに「こういう発見もあるんだ」と深く観るようになったし、彼以外の人とも感想を語り合うことが楽しいということも分かった。

彼と話していて良かったのは、彼は決して自分の意見を押し付けたり私の意見を否定したりしなかったこと。私の意見を尊重しつつ「それとは別の観方があるんだよ」というのをさりげなく示してくれた。彼自身は折衷主義というか、物事には色んな側面があるということを慎重に見たいという人だったのだ。(その分「自分の意見を強く持てないんだよなあ」と自分の欠点をよく口にしていた)私自身も今は、そうありたいと思うようになっているが、それは確実に彼の影響だ。

Negiccoは彼の部屋でCDを見つけたのが最初だった。(「Melody Palette」が出たばかりの頃だ)「こんなのも聴くんだ」と私が尋ねると「この子達のことを知ってから『アイドルだから聴かない』というのも偏見なんだなあと気づいた」と彼が言って、その言葉が印象的だったのを非常に覚えている。とは言っても大勢で勢い任せに歌っている女性アイドルはそんなに好きになれず、Negiccoとかは彼も好きなんだし、まあいいかなというくらいだった。

私が先にハマったのが声優さんの方だった。花澤香菜さんの「claire」は本当によく聴いた。花澤さんのライブにも一緒に行った。彼はもともとあまりライブとかには行かないそうで、だからデートに行く場所とかは私が主導権を握っていたのだ。付き合う前から共通で好きだった洋楽とかでも、ライブとかはほとんど行ってなかったくらいだった。「友達とか歴代のカノジョに誘われて数回ぐらい。でもそれだと本当に好きなアーチストとかは見に行ってないんだよねえ」とのたまっていたのだ。そんな優柔不断なところが、結局別れてしまう原因になったのかも知れないけども。

私が、というより私も彼も本格的にネギさん達にのめり込むきっかけとなったのは例の「サンシャイン日本海」のリリイベの頃だったと思う。と言いつつも、あの最終日の盛り上がりはTwitterのまとめサイトで後から知ってしまう体たらくで「ヤバイね、これはちゃんと応援しなきゃいけなかったね」と二人で反省したりしたものだった。私自身は祭りに乗り遅れた悔しさみたいな感情も混じっていたのかも知れない。そういうの、大好きだから。そこから彼に「抜き天」の話などを教えてもらい、本格的にハマってしまったのでした。

だから「光のシュプール」の5位は本当にうれしかったし、Perfumeとの再会も涙涙だった。(彼の部屋で一緒に観て、共に涙した)野音にも一緒に行った。その流れで例の「カナールの窓辺」を聴いたのだった。


楽しそうなレコーディング風景のMVに引きずられたのかも知れないけれど、私が最初に口にしたのが、先ほども書いたけど「幸せそうな曲だね」というものだった。それを聞いて彼は「でも別れの曲だよ」と半分冷やかしで言ったんだけども、クスクス笑いながらそんな感想を語り合うその時が、何よりも幸せだった。この後に本当に別れが来て、この曲の切なさを体感するようになるとは知らずに。

別れの話が始まったのは、彼の海外赴任の話が浮かび上がってからだった。年末ごろに彼から「会社のインドネシア支部に転勤になりそうだ」という話を聞いた。その時私は、会社を辞めて彼についていってもいいと思った。というより、会社を辞めて僕についてきてくれ、と彼に行ってほしかった。もう2年以上彼と同棲しているわけだし、いずれは結婚をとお互い考えていたのだから、そのタイミングが今でしょと思っていた。だけど彼はそうでもなかったようで「君の人生を拘束するわけにはいかない。結婚しても仕事を続けてほしいと思っていたし」なんて答えが返ってきた。彼は遠距離恋愛を考えているらしい。
「そんな、遠距離なんて私やだし、なんなら向こうで仕事見つけるよ」
「君は自分の人生をそんなに軽く考えてるの?」
「軽くは考えてないよ。でもあなたなしの人生なんて考えられないし、あなたと一緒に見る風景の方が大事だもん」
「言っとくけど、ずっと向こうに住むわけじゃないからね。多分3年くらい。そのために一回仕事を辞めて、そこからまた戻ったりなんて出来ないでしょ」

そこから色々話し合いをしたし、自分の人生について考えてみたりもした。自分の人生なんて重いテーマには結論なんてつけられなかったけど、今の仕事がそんなにも好きではないんだなあというのは分かった。ただ、他にやりたいことがあるわけでもないし、会社に不満があるわけでない(むしろ自分には勿体ないくらい)のでそこにいるのだ。そんなことは、こういう切羽詰まった状況にならないと分からなかった、というのは情けない話だけども。

彼はどうやら私に自立した女でいて欲しかったようだ。「ようだ」なんて曖昧な言い方になってしまうのは、彼自身はそういう自分の考えを私に押し付けたくなかったから。だから私の考えをまとめるのに協力してくれたし、自分で分からなかったら色んな人に意見を聞いて甘えるべきだと言ってくれたりもした。もし二人にもう少し時間があったら、そういった問題もうまく解きほぐして、二人にとってベストな結論に持っていくことが出来たと思う。だけど、二人には時間がなかった。二人の今後についてきちんと結論をつけられないまま、彼は旅立ってしまったのだった。

だったら彼の言うように遠距離恋愛でいいじゃんと思うかも知れない。あるいは彼の中では未だにそう考えている部分があるのかも知れない。(「君以上の子に出会うことは多分ないから」と言ってくれたし)でも、そんな宙ぶらりんなことになるのなら、一旦距離をおこうと私の方から言い出したのだ。少なくとも当分は会いたくない。だから、連絡もしないで!

ところがいざ、彼がいなくなるとこんなにも辛くなるとは思ってもみなかった。もう、ほとんど毎日泣いていた。ほんの些細なことで彼がいない喪失感に気づき、号泣する。彼の痕跡のあるものを見つけては悲しくなる。その連続だったわけだが、ここ数年私にとって彼はほとんどすべてだったから、どれだけ頻繁に彼の不在を感じたのか、誰も想像できないと思う。

さすがに1か月もすると慣れてきて、いちいち彼の痕跡を感じて泣かなくはなったけど(でも彼がいなくて寂しい気持ちは全然うすれたわけではない)あの「カナールの窓辺」だけは別だった。1回浸ろうとして聴いてみたけれど、辛すぎて最後まで聴けなかった。だって、今の私の気持ちそのまんまだもん。なんで最初に聴いた時「幸せそうな曲だ」なんて感想を抱いたんだろう。それを彼に冷やかされたことを思い出して、また悲しくなって。アルバム『TEA FOR TWO』が出た時も「カナールの窓辺」だけは飛ばして聴いたくらいだった。

「カナールの窓辺」はいなくなった彼の痕跡を求めて思い出の街に行くという歌詞だけども、どうしてそんなことをするのか、最初は分からなかった。自分から辛くなるようなことをするんてMな趣味私にはないし。でも、そうしたくなるほど彼のことが好きなんだと気付いたのは、別れてしばらくしてからも彼の影響が抜けなかったからだ。相変わらず朝にジャズを聴くし、待ち時間に本を読む。そんな自分と以前の自分と比べてどっちが好きかと考えた時(そんな風に考えること自体、完全に彼の影響だけど)今の自分の方が好きだと自信をもって言えると感じた。

いつしか私は、彼との思い出の場所を聖地巡礼するようになっていた。初めてデートに行った水族館。二人でよく散歩した川のほとり。あちこち食べ歩いたけど二人にとってベストワンだったカレー店。時々泣いてしまうこともあったけど、実感したのはこんなにも彼のことが好きだったということ。そして彼といた自分、彼によって変わった自分が誇らしくて好きだ(った)ということ。一緒にいた時よりも好きだという気持ちが強まったかも知れない。今なら「カナールの窓辺」を聴けるかもしれない。

  星が流れて 月が眠る頃
  新しい日が
  もう私を待ってる

久しぶりに聴く「カナールの窓辺」は、ビターでスウィートな味だった。そう、彼との思い出のように。一番最初に「幸せそうな曲だ」という感想を抱いたのは、あながち間違っていなかったんだ。その原因が分かると同時に、一番大事なことを彼にまだ伝えていなかったことに気づいた。

一緒にいてくれて、好きにならせてくれて、ありがとう。

     ×     ×     ×

今回はこんな感じで攻めてみました。いかがだったでしょうか。「この二人、まだ別れて
いないんじゃん」というツッコミもあるかも知れませんが、そこはわざと曖昧にして下さい。
実は、後々の展開も考えているので。

次回は未定。いくつか候補はあるんですけど、まだお話が「降りて」きてないので。
ラベル:Negicco
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2016年09月27日

「バニラビーンズV」より「ビーニアス」楽理解説

お久しぶりになってしまったバニビVの楽理解説。もう「シノバニ」の新曲も本日
フラゲ日となってしまっているので、先ず取り急ぎ紹介致しましょう。


基本的にはバニビの世界観(特に前作Vの路線)にシノラーが乗っかった形と考えて
良いのでしょうが、篠原さんのセンター映えすること! その辺が新味と言えるでしょう。
楽曲派()の方は要チェックな音であることは間違いないでしょう。

ここしばらくAbema TVでの宇多丸さんの深夜番組でのアシスタント(特にリサさんが
コンビニ食を試すコーナーが出色!)でも活躍中ですが、やはり歌で魅せて頂きたいですね。

「ビーニアス」はシングルのカップリング扱い(一応「トリブルX」という触れ込み
でしたが、松井さんが書いた曲がどうしてもリード曲になっちゃいますもんね!)
なのですが、エモくてカッコイイ最近のバニビを象徴する名曲だと思います。この曲を
ライブでやれば一見さんも惚れること間違いなしのキラーチューンと言えるでしょう。

なんて能書きはこれくらいにして、早速楽理解説に入りましょう。最初のイントロ4小節は
ほぼユニゾンのリフ。それも3小節は同じリズム(3小節目だけ少し音が違う)です。
1拍目は16分音符、2〜3拍目は16分音符の裏(シンコペーション)で4拍目に表に返る、
というリズムでリフが刻まれています。そして4小節目は付点八分音符でE♭→E→Fと
上ってF(この曲のキー)に戻るというフレーズ。ちなみに1と2小節目もFでずっと押して
4拍目でE♭→Eと行くので、フレーズ的には繰り返しですね。(3小節目でEに行かずCへ
下がるのも、4小節目の動きのためでしょう)

そして5小節目から本格的にイントロが始まります。ここのコードはこうなっています。
 |Fm|A♭inE♭|B♭|D♭・C|Fm|A♭inE♭|B♭|D♭・C|
そしてここでは、その上にそれほど大きな音でなく奏でられるブラスのフレーズが大事でしょう。
このブラスのフレーズ、1拍目は16分音符4つなんですが、2拍目で八分休符が入って裏から
四分音符の伸ばしが入るのですが、この八分休符がこの曲のポイントと言っていいでしょう。
細かいリズムは違ってもこの1拍目で16分音符〜2拍目で8分休符というパターンはわりと
よく出てきます。勢いよく始まったフレーズが休符でせき止められて、そこでエネルギーがたまる
わけですね。なのでその後の2拍裏の音にアクセントが来るように出来ています。

そしてAメロに入る前に2小節のブレイクが入るのですが、これがユニゾンで細かいパッセージを
弾いています。ここもリズムが16分音符〜8分休符の繰り返しが2回、その後8分音符で4拍裏に
アクセントのついた伸ばしが入るというリズムになっています。先ほど解説した2拍表に休符が
くるパターンをダブルで繰り返す(その場合、3拍裏に2つめの8分休符が来る)パターンです。
さらにここは、8分音符の3−3−2のパターンとも言えます。(この辺の議論が分からない方は
こちらを先にお読みください)

Aメロに行きましょう。ここのコードはこうなっています。
 |Fm|E♭|D♭|A♭inC|B♭m|C|Fm|Fm|
最後の2小節はユニゾンのブレイクですが、コード的にはFmと考えて差し支えないでしょう。
いわゆる1〜5小節は逆循環コード的に順次降りて行っている進行です。そういう大柄なコード
進行に乗って、2拍3連中心のせり上がるメロディラインが展開する。当然上がるところで
エモーショナルになるのですが、面白いのが3〜4小節目のメジャー展開になるところでメロディが
下がっていっているところ。マイナーな曲でメジャー展開する際にはいくつかの機能があるわけ
ですが、ここでは温かみというかふくらみをつける部分で、そこに合わせるようにメロディラインに
丸みを持たせる意味を担っている箇所だと思います。

そして7〜8小節目がユニゾンのリフなんですが、ここのリズムも例の、1拍目が16分音符の
4連打〜2拍目は8分休符プラス裏拍から伸ばす音、というリズムパターン。おまけに8小節目は
1拍目から付点16分音符を用いた3−3−2のリズムパターンとこの曲での2大リズムパターンを
ここでも踏襲しています。

そしてAメロの2回目は少しだけコードが変わります。
 |Fm|E♭|D♭・E♭|A・FinA|B♭m|C|Fm|Fsus4・F|
3〜4小節目で細かく動いて5小節目のB♭につないでいますね。特にFinAは副五という機能を
持つコードで(俗にセカンダリー・ドミナントというコードです)ここで緊張感が強まるところ
なんですよ。そこを目がけてか、この3〜4小節目はメロディも上がり目で、次の5〜6で下がり目
(その後再び上がるけど)になっていますね。

そしてBメロ。ここが少し面白い箇所です。コードと構成はこうなっています。
 |B♭m|B♭m|D♭|D♭|G7add-9|G7add-9|C|C|C|
なんと9小節なんですよね。この、1小節あまるところは後で解説しますが。先ず
ここは2小節ずつコードが変わっていて、コードはそれぞれ1拍目にブレイク気味に
置かれるだけで、後は主にドラムが鳴っているだけというバックのアレンジになっている。
(ギターがユニークなフレーズを弾いているのとブラスぐらい)そこへ歌メロは細かい
パッセージで押していく(少し16分音符の3−3−2っぽいパッセージ)のですが、
5小節目から少しテンションコード気味(しかもここは副五でもある)で7〜8小節目へ
緊張感を増していくように作っている。その部分は一応Cというコードにしてあるけども、
メロディが最高E♭の音へ上るように出来ている。このE♭の音がマイナーではなく、むしろ
マイナス10というテンションの位置になるようにメロディも作ってあるんですよ。しかも
8小節目の付点8分で3−3−2を刻むコードでも最初の2つはCaugみたいな響きになって
いるんです。相当ここはテンションコード的な色気を感じさせるところなのです。

そしてそこにおまけをかぶせるように9小節目は8小節目と同じ3−3−2のリズムで
ブレイクが入る。しかもここはCの単音ユニゾンっぽく(パワーコード的?)音をシンプルに
している。そこへ次のサビメロがアウフタクトで前から始まるようになっております。

そのサビですが、非常にエモーショナルな箇所ですね。コードはこうなっています。
 |D♭|E♭|Cm|Fm|Gmin7-5|C|Fm|A♭|
 |D♭|E♭|Cmin7-5|F7|B♭・E♭|C7・Fm|Gmin7-5|C|
最初の4小節はいわゆる王道進行。日本人の大好きなコード進行ですね。ここで切ない感じを
演出しつつ、5小節目のマイナーセブンマイナスファイブが先ず目につきます。ただこれは、
Fminorのキーでは二の和音で、そこから五→一と行くのは正統的なコード進行であります。

そして9小節目からは王道進行ながらCのところでまたマイナーセブンマイナスファイブを
用いている。当ブログで「短調の副二」と呼んでいる手法、特にこういう場所で用いると
切なさ2割増しなんて話をよくしているコード進行です。要はここにエモーションの頂点が
くるわけですね。それを強調するようにここにメロディも最高音E♭を持ってきていますし、
次のF(緊張感を回収するところ)を3−3−2のブレイクにしていたりと、これでもかと
強調して盛り上げています。

そしてイントロの5小節目からの部分を再現して(ただし入り前の2小節のブレイクはなし)
Aメロに。ただしここのAメロの前半(交代してリサさんパート)リズムのキックとスネアを
お休みして(その分コンガが鳴っていたりハイハットがオープンで裏打ちを続けていたりします)
ちょっとしとやかに展開されるのと、後半のレナさんが熱唱と言えるフェイクつけまくりのメロディ
(エモーション5割増し!)で歌っていたりと、ライブで盛り上がること必至の箇所になっています。

その後Bメロ〜サビと進んで、その後はイントロ4小節のブレイクの後ギターソロになります。
ここはイントロ5小節目からの8小節と同じコード進行(アレンジの外枠もほぼ同じ)になって
いて、その後Cメロにつながるのですが、そこがこのようになっています。
 |Fm|Fm|Gm|Gm|A♭・A・B♭|B♭・Bdim|C|C|C|D♭・C|C|
最初の4小節はブラスの付点8分をフューチャーしたフレーズ(3−3−3−3−2−2と
言えますね)にメロディが掛け合いで続く(8分音符中心の細かいパッセージ)形で、
5小節目は(1コーラス目の)Aメロ2小節前の16分音符〜8分休符の繰り返しに最後16分音符
の4連発で最後の音を伸ばすというブラス(ベースとスネアも同じリズムでユニゾってる)の
フレーズなんですが、ここがA♭の音の第5音(E♭)から第3音(C)へ半音ずつ降りている、
そのフレーズが半音ずつ平行移動で上がっているわけです。なのでコードも半音ずつ上がっている
(機能的にはAとB♭はマイナーであるべきなのですが、以上の理由でメジャーになっている)
という形になっています。そこからBでは減和音(これはG7の代用と考えられる)になって
Cのコードは4小節プラスおまけの1小節(サビ前のブレイク)で引っ張っています。さすがに
最後から2小節目(ここはBメロではCaugっぽくなっている箇所)ではD♭のコードを使って
いますけども。

そして最後のサビは2回ししているのですが、最初の8小節(厳密には7小節)でリズムブレイク
っぽく(ベースとキックなどは5小節目から入っている)して落ちサビにしているのと、1回目の
サビ終わりはメロディを抜かしてコーラスで「サヨナラ〜」と歌わせているところが効果的ですね。
アレンジとしては2回目の後半からはギターソロも入っているのと、例のCmin7-5の盛り上がる
ところでスネアが16分音符で連打されているのがポイントですね。そして最後が1小節余計に
3−3−2のブレイクを挟んで、これでもかと盛り上げてアウトロに行きます。

アウトロも基本的にはイントロの5小節目からと同じです。そして2小節のブレイクの後、16分音符
の4連打で曲は終わります。

以上ですべてです。また例によって専門的過ぎる箇所が多いでしょうが、音を追いながら聴いて
もらえれば分かるように書いたつもりです。質問はいつでも受け付けますので、コメント欄に
書いてくださいね。(その方がみんなで共有できますので)

次回はいよいよ「スタイル・アンド・カウンシル」ですね。
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2016年09月26日

サブスク時代の洋楽楽理解説 #8 Prefab Sprout「The King of Rock 'N' Roll」

秋ですねえ。当連載もこれから秋が似合うアーチストを続けて紹介していきます。
今月は泣く子も黙るPrefab Sprout! 若い人は知らないかも知れないけど、
30半ば以上の洋楽リスナーには、手強い存在と言えるのではないでしょうか。

この連載には実は裏テーマがありまして、それは「80sニューウェイヴのゆくえ」
というものなんです。もちろんそればかりを追求するわけではないのですが、その
線上で色んなアーチストを紹介していこうと思っているわけです。(そういう見立ての
もとでR.E.M.の回を読み直すとまた発見があるかも。初期の曲を取り上げていますし)

ニューウェイヴのアーチストには色んな存在がいまして、本当に多士済々なのですが、
その中でもPrefab Sproutは異彩を放っているというか、恐ろしくセンスのいい存在
(そしてプリファブを好きなバンドに挙げる人はちょっと侮れないぞと警戒したりww)
と見なされていました。万人受けする音楽というよりも、本当にセンスのいい人に好かれる
音楽性という感じ? それが90年代以降になると「浮世離れした音楽仙人」という趣に
変わっていくような印象があります。ストリングスを排したゴージャスな作りになって、
彼の音楽性にマッチした外観を持つサウンドにシフトしていくのですが、それと共に
ミュージック・シーンのメイン・ストリームからフェード・アウトしたように感じます。
といっても80年代に彼らがど真ん中にいたわけではないのですが、それでもシーンの
一翼は担っていたわけですし。

彼らが90年代以降浮世離れした存在になっていった原因としては、寡作であることも
言えるかも知れません。いや、あり余るほど曲は出来ているそうですが、なかなかそれを
完成させることが出来ず(ああ、天才にありがちなヤツですな)ついついリリースの
間が空いてしまうという。ただそうやって出てきた作品がいずれも劣らぬ大名作だったり
するので(あり余る作品から厳選されたからかも知れませんが)存在の神秘性が増すわけ
ですよ。おそらく死後に大量の未発表曲が発掘される、そんな存在なんでしょうね。

そんなPrefab Sproutの中心人物がPaddy McAloonでして。特に90年代以降の
プリファブは彼のソロ・ユニットと呼んで差し支えないワンマン体制になります。
まあ元からプリファブって彼のソングライティングの妙を味わう場でしかなかった
わけですし、プリファブ=Paddy McAloonの楽曲と考えてよいでしょう。

ちなみに彼自身は自分のことを「史上最も優れたソングライター」だと豪語していますが、
それは決してビッグ・マウスの類ではないんです。彼の意識としては事実をただ言ってみた
だけ、という。もし彼のようなソングライティング能力を授かっていれば、誰もがそのような
ことを言ってしまうであろうと、そう考えられるわけです。

そんなPaddy McAloonのソングライティングの特徴は、絶妙なズラシと否応なくにじみ出て
しまう上品さ、と要約できるでしょう。「I Love Music」という曲で「ありとあらゆる
種類の音楽が好き」と音楽愛を告白していますが、彼の音楽は、どんなジャンルの音楽を
作ろうと、記名性の高い音楽になってしまうほど特徴的と言えると思います。それをこれから
楽理解説していくわけですが。

では楽曲の紹介に入ります。「The King of Rock 'N' Roll」は彼らの最大のヒット曲
でして、この曲は人口に膾炙したと言えるほど大ヒットしました。ポール・マッカートニーが
この曲について「娘が好きでいつも口ずさんでいるんだよ」とコメントしたのもうなずける
ほど、イギリスではよく知られた曲なんだそうです。

この曲を初めて聴いた人は、非常に不思議な曲に思えたのではないでしょうか、でありながら
奇妙にポップでもある。何かあまり似た例がないような曲と言えるでしょう。この曲はタイトル
から想像できる通り、ロックンロールを戯画的に描いた曲で、曲の中でもロックのクリシェが
(今連載しているコード進行のことでなく、ロックの典型的な語法のこと)使われていたり
します。彼らなりにベタなロックをやってみた、というところなんでしょうが、それでも彼らの
ことですから、どうしても上品になってしまう。そこが、この言いようのないテイストの曲に
なっている原因だと考えます。

では早速、この曲の構造にメスを入れていきますね。最初にイントロですが、ここは先ずバックが
Aメロの途中までのコードを奏でます。キーボードの単音リフやコード・バッキングが見られる
だけで、わりとシンプルな音で始まります。そのコードはこうなっています。
 |E♭|E♭|D♭|D♭|B♭m|B♭m|

コード進行的には五→四→二。次に一に行きますから、いわゆる五→四→一のバリエーションと
言えます。五→四→一というのはロックンロールの常套句的なコード進行なんですが、そこに
二の和音が挟まることで陰りを生んでいる、と言えるでしょう。このコードはAメロでも
表れますので、そこでも分析したいと思います。

そして、ここで是非言及しておきたいのがギターのカッティング。ここのコード感がちょっと
微妙なんですよ。最初のE♭のところは1発目は普通のE♭のコードなんですが、2発目から
A♭の音が入っている不思議なコードになっているんですよ。つまり4度の音が入り込んでいる。
まるでA♭maj7/E♭のようなコードになっているんですね。これ、よく聴かないと気付かない
ところなんですが、この曲のあさってに進む感じを象徴しているように思えます。
次のD♭のところは普通にD♭のコードなんですが、その次のB♭のところもヘン。最初はD♭の
コードを弾いていて、これはB♭min7になるから普通なんですが、次からA♭6みたいなコード
になっている。転回させるとFmin7/B♭になるので、11thまで入ったテンションコードと
考えられるわけですが。

そこからイントロで女性コーラスが入るのですが、その前が6小節になっているのもポイント。
(これはAメロとの対比をしてみて下さい)。ここはBメロの部分の前触れと言える部分で
コード進行はこうなっています。
 |A♭|E♭inG|D♭inF|D♭inF|

そこへ2拍3連で女性コーラスの分散和音的なフレーズが入ってきます。分散和音と言っても
バックのコードに忠実というわけでなく、むしろ6度の音(A♭にとってはF、E♭にとっては
C)が入ることで、まろやかさな印象を残すフレーズになっています。この6度の使い方は
Paddy McAloonの特徴の一つと言えるので、この後もたびたび出てくると思います。

あと、ここではシンセのコードバッキングについて触れておきたいところですね。ここのコードは
転回してE♭が一番下になっていますがFmin7のコードを弾いています。ここもコードの多様性
というか曖昧性を醸し出している
ように思えます。コードの多様性についてはAメロで詳しく
論じようと思います。

ではAメロに行きます。ここのコードは先ずこうなっています。
 |E♭|E♭|D♭|D♭|B♭m|B♭m|D♭/A♭|E♭inG|

一応このようにしていますが、7小節目については私の解釈にすぎません。というのも、ここの
部分はギターはE♭のコードを奏でていて、シンセの単音リフもA♭からE♭→F→Gと進んでいて、
ここの部分がA♭maj7的と言ってもいいからです。ただし私はここのメロディと2回目に表れる
シンセパッドのフレーズからD♭の転回形と考えるのが適当と解釈します。いずれにせよ、
ここはコード的に曖昧であるということは掴んでおいていい事実だと考えます。

ちなみにここは、イントロでも触れた通り五→四→二と進んでいて、そこからギターや単音リフの
進む通りにA♭と解釈すれば一の和音、メロディやパッドの解釈であるD♭と取れば四の和音に
なります。つまり一に戻るか戻らずに四に行くのかという違いなわけです。そこで戻るような
戻らないような・・・としている辺りがミソ
なのかも知れませんね。

そして、そこに乗っかるあまりにPaddy McAloon的なメロディ! このメロディ、2拍3連的
というか、3−3−2的な付点8分音符的というか、そういう音形を中心とした複雑なリズムで
入っているのですが、アウフタクト(1拍目の前の小節からメロディが始まっている)で1拍目と
4拍目は表にメロディが入っていて、そこは一つ強調するポイントになっている。そこに来る音は
最初のフレーズではE♭。これはバックのE♭のコードの根音と同じ音で、このメロディの動き
(C→Fへと順次上がっていくメロディ。ちなみにCは6度、Fは9度)がもたらす浮遊感を
引き締めてコードにつなぎとめる役割
をしています。次のメロディは最初のメロディを3度
下げただけの平行移動パターンなんですが、バックのコードとの役割が交替しています。
つまり、メロディの動きはA♭→D♭でこれはコードの5度と1度で合っているわけですが、
1拍と4拍表に来る音はCで7度になっています。面白いのは次のメロディも2番目の
メロディと全く同じなのですが、バックのコードがD♭→B♭mと3度下がっているので
当たり方が変わるのです。メロディの動きのA♭→D♭はコードの7度と3度、1拍と4拍表のCは
9度と、それぞれ不安定度が増すように出来ている。そして、4つめのコードのところは
メロディがF→Cと2音(あるいは3音)だけになっていて、これが共にバックの根音A♭からは
6度→9度と不安定な当たり方をしている。ちなみにD♭と解釈すれば3度→7度とそこそこ
合っていることになります。いずれにせよ、メロディがあさっての方向に投げ出されている
のはお分かり頂けるでしょう。

次にBメロ、というかたった4小節のつなぎのパート(英語圏ではブリッジと捉えるでしょう)。
ここのつなぎは、イントロの女性コーラスのところの再現なんですが、コードはそこと同じです。
 |A♭|E♭inG|D♭inF|D♭inF|

そして1拍目にシンセのコードバッキングが入り、そこに続く形でメロディが入るという形に
なっています。ところが最初の2小節は2拍目・3拍目の2音だけ。しかもD♭→C→B♭→A♭と
順次下がる形。非常にミニマルな形ですよね。おそらくサビのメロディの前触れ的な役割も
果たしていると思しきこのメロディ、コード的には最初のA♭に対いては4度→3度と不安定→
安定、次のE♭に対しては5度→4度と安定→不安定と当たり方も一定していない(1回安定
させておいて、不安定な方へ「開く」感じ?)ようになっていて、次のフレーズへ渡すように
なっています。

次のフレーズは、そのA♭から細かい音符で順次降りていく(最後は一度Fに上がってからA♭へ
下がる形になっています)つくりになっていて、そこから1小節分休符にすることでサビへ
向けてエネルギーを貯めるようになっています。

そして、思わず口ずさんでしまうサビです。「Hot dog, jumping frog, Albuquerque」
という有名なフレーズですが、このメロディを解説する前にコードを押さえておきましょう。
 |A♭inE♭|Cm|B♭m|Fm|
最初が転回形になっているのが特殊(非常に効果的、ですよね!)ですが、一応一→三→二→六と
メジャーからマイナーへ変調していくようなコードになっています。こういうバカ騒ぎっぽい
曲でも、独特の陰りを見せているのがこの辺のコードの使い方に起因している
と言えましょう。

そしてメロディですが、最初の「Hot dog, jumping frog」までがB♭からE♭へ順次下がって
いる単純なメロディの形なんですが、G→Fのところが2度下がるのでなく7度上がるという形
になっている、のがこの曲最大のポイントと言えるでしょう。(しかも「jumping」という所で
ご丁寧に跳躍しているという!)ここのところ、実はこのメロディ、比較的コードと合っている
箇所でして。最初のB♭→A♭はバックのA♭からは9度→1度でして、次のCmのコードに対して
GとE♭は5度と3度になっていて、跳躍するFだけが11度と合っていない箇所になる。(前の
B♭も不安定な箇所ですが、そこは後述)つまりここは7度跳躍&バックのコードとの兼ね合いで
非常に不安定に聞こえる箇所で、そこから次のE♭で安定へと回収されるつくり
になっているんです。

また、前のフレーズとパラレルになっているのもポイント。最初の「Hot dog」のところは1拍目が
休みで2拍目の3拍目にメロディが置かれている。それに対して次の「jumping frog」のところは
1拍目から3拍目まで音が置かれていて、その1拍目→2拍目で7度跳躍が入っているわけです。
それによって、最初の2拍→3拍と次の2拍→3拍とメロディがパラレルになるように出来ている。
しかも1小節目は9度→1度であり、2小節目の2拍→3拍も11度→3度といずれも不安定→安定と
パラレルになっている
んです。というふうに、ポップなメロディでも絶妙なところで外し、そして
絶妙にパラレルになっていることがお分かりだと思います。

そして最後の「Albuquerque」は1拍目と3拍目には表拍になっていて、次が4拍裏→次の小節の
1拍裏と裏拍になっている。そして音はE♭→B♭→Cと動きますが、最初のE♭がバックのB♭mからは
11度と大変不安定、次のB♭はバックの根音と同じですがCが9度とやや不安定。ところがコードが
Fmに動くと5度と安定的な当たり方になります。その辺の安定不安定の絡みも兼ねてメロディを
シンコペーションにしているのかなあと思わせるほど、効果的です。

そしてサビメロを2回繰り返した後、間髪入れずにAメロに。ここではAメロ最初のアウフタクトの
2音を省略しているほどいきなりAメロに入るんですね。もっともそのアウフタクトは2回目には
きちんと復活していますが。

そして2コーラス目のサビの後、Cメロと言える箇所(大サビというんですか、でも少し違う)
に行きますが、その前に2小節分B♭mのコードで最高音のA♭から下がるメロディに行くんですが、
ここでのポイントはそこでCとE♭の音を使うところ。A♭もB♭mからは7度なんですが、Cは
9度、E♭に至っては11度ですから、ここのコードがテンションコードっぽい響きを作り出して
いる(シンセのバッキングも11度を強調しています)そしてそこに続いているのが次のコード。
 |A♭inE♭|Cm|B♭m|Fm|

あれ、サビと同じコードだ。そしてイントロで女性コーラスに歌わせていた2拍3連のフレーズを
Paddy McAloonが歌うんですわ。つなりここは、イントロのリハーモナイズと言えるところ。
まあBメロとサビってコードは似てるんですけどね。これが最後の箇所の伏線になっている。

そして3たびAメロ(今度はアウフタクトあり)に進み、そこからAメロ〜サビと進み、また
Cメロに行くんですよ。その前のサビメロの「Albuquerque」のところでC→A♭と1回下がる
という謎の動きをしていますが。そして謎なのは2回目のCメロはBメロのコードになっている
ところ。まあこれはそこからまたサビに行くので、コードがずっと同じになるのを避けている
のでしょうけども。

そしてサビの繰り返し&フェイドアウトになるのですが、ここにイントロの女性コーラスも
重なるというつくりになっているわけです。そして地味で目立たないのですが、Aメロにあった
「the king of rock 'n' roll」のフレーズも低音で重ねているんですよ。4小節目の3拍目
から挿入ということで随分ずらして入れているんですけど。このように最後の最後で掛け合いと
いうか、セルフ・マッシュアップ的な愉しみを入れているのも聴きどころでしょう。

いかがだったでしょうか。力が入った分かなり難解になったかも知れません。このようなちょっと
バカ騒ぎ的な曲でも、十分に彼らしい上品なズラシを堪能できたのではないでしょうか。ただ
1点、この人の特徴的な6度と4度の使い方は今回あまり紹介できなかったですね。そこは、
いずれ別の機会に別の曲でも取り上げたいなあと思います。

この連載、次回も秋の夜長に似合うアーチストを取り上げます。今度はソウル畑からAnita Baker
を特集。「Talk To Me」私の大好きな『Compositions』という名盤の1曲目です。是非事前に
聴いて、秋を堪能してくださいね。
posted by なんくい at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする