2016年09月21日

Spitz草野マサムネのメロディ10の秘密#3 だんだん上がっていくメロディ

第3回目を迎えましたスピッツ草野マサムネさんのメロディを解説する連載。
今回はマサムネさんお得意のこういうメロディの形を特集します。



このサビのように上がっていくメロディ。基本的に上がっていくメロディは高揚感を生む
というのは言えるわけで、スピッツでもこういうメロディを非常に巧みに使っています。

ですが、その「上がっていくメロディ」の使い方が、一種独特なんですよ。それを、先ずは
この「スカーレット」のサビから見ていきますね。

この曲は先ずA→Cへとメロディが上がり、続けてC→E、そしてE→Gへと同じ形で順に上がって
いきます。なんですが、この上がり方、バックのコードとの絡みでちょっと緊張感を生むように
出来ているんです。先ずこのメロディですが、アウフタクト(正規の拍の前から始まっている。
いわゆる「食う」メロディ)で、前の小節の3拍目から始まっています。そしてメロディの終わり目
が4拍裏。つまり半拍食っているんですよ。そこがコードの変わり目になっています。

この曲、イントロ(あるいはバースの終わり)がFのコードでこれはFmajorの一のコードです。
そこからサビの始まりがC、これはなんと五のコード。五(ドミナント)から始まるという割と
特殊なコード進行なんですね。そこから解決するのかと思いきやAm→Dmとマイナー展開し、
そこからB♭でメジャーの四の和音に行く、というコードの構造になっています。
(その後もそのコードを循環しつつ、小節の省略などテクニックを駆使してるんですが、これは
 コードの解説記事ではないので、この辺で失礼します)

そしてそのメロディがコードとどう当たっているかというと、最初のA→CはFのコードの3度〜
5度、そしてコードの変わり目のCにとっては1度の音。ここは普通すぎる当たり方ですね。
続いてのC→EはCのコードの1度→3度、そしてコードの変わり目のAmにとっては5度。
その次のE→AはAmのコードの5度→7度、そしてコードの変わり目のDmにとっては11度、
と不安定さが増すように出来ている。このDmにとってのGが不安定なので、メロディはそこから
F→E→Fと漂流するわけです。そしてコードの変わり目のB♭のところでAという最高音(これが
先ほどのGの次の音になっている)になり、これが7度という丁度いい色気を出す当たり方を
しているんですね。このAの音でカタルシスが来るように出来ているんです。

まとめると、Cというドミナントから始まってマイナー展開するコードの中で、上がりつつも
不安定さを増すメロディにより高揚感がいわばペンディングされるのですが、最後にB♭という
メジャーに戻る展開とAという程よい色気をもつメロディとでいわば焦点が合う。ここまで
コードとメロディで焦点が合わずにぼやけていたのが、このAのところでぴったり合う。そこで
ここにカタルシスが集中するように出来ている。これが、気持ちいいんですよ。

このように、高揚するメロディの旨みを、バックのコードとの絡みで絶妙にずらしたりしつつ
ここぞというところで焦点を合わせるのが、草野マサムネ氏の使い方の常道のように思えます。

上がってくメロディの代表曲としては『インディゴ地平線』に収録の「夕陽が笑う、君も笑う」
が挙げられます。ここのサビ「夕陽が笑う、君も笑うから」のところは、F#→Bという上がる
メロディ(さらに続きもE→A)でおいしいところですよね。ですが、このメロディ、最初の
3音(F#・G#・A)は表拍なんですが、ここからシンコペーションになり、同じAを挟んで
Bの音に行くのは次の小節の1拍裏。この間半拍だけAの音が残るんですよ。そしてここで
コードがD→Eと変わっているので、EのコードにAが当たっている。ここ、本来はDのコードに
F#は3度、Aは5度と普通の当たり方をしていて、次のBの音もバックのEの5度なんですよ。
ところが半拍ずれたAの音はバックのEの11度と不安定。というふうにシンコペのずらしと
コードのずらしが一緒に来る。そして1番おいしいBに行くのも半拍ずれていて、それを是正
するかのようにもう1音表でBの音が来て、ここにカタルシスの頂点が来るようにしている。
つまり、ちょっとだけ快感の位置をずらしているんですよ。ついでに言えば、このメロディが
2拍目から始まっているのもポイントですね。1拍目が休符によりエネルギーがたまるように
出来ている。

さらに、続きのE→Aのところも同じようなメロディなんですが、ここはコードとの当たりが
AのコードにEは5度、G#は7度とやや不安定で色気のある当たり方をしている。そして
F#mのコードに対してAは3度と普通の当たり方なんですが、半拍ずれたG#が9度と
大変色気のある当たり方をしていて、それを強調するかのように、Aに行った後にG#→E
と9度→7度をもう一度なぞるようなメロディになっているんです。

次は、草野マサムネ氏がChappieに提供した(松本隆さんの作詞)「水中メガネ」という
隠れた名曲があるのですが(草野ソロでカバーしています)この曲なんか、非常にシンプルに
上がっていくメロディの旨みを凝縮しているようなメロディなんですよ。

このAメロは同じ音で2拍目から音を並べるのですが、4つ目の音だけが4拍裏。つまり半拍
食っているんですよ。そしてこれもアウフタクトのメロディになっています。

そして音ですが最初はAの音、次はB(少しだけAに降りてます)、その次もB、次はC#
(ここも一部Bに降りている)、次はC#、次はD(一部C#)と、階名で言えば「ド→レ→
レ→ミ→ミ→ファ」という上がり方をしているんですよ。見方によっちゃあ非常に単純なメロディ
ですよね。(前回取り上げたミニマリズムの極致とも言えるメロディ)ですが、単純な分
メロディの段々に持ち上がる感じが非常に強い。それは、このメロディがアウフタクトに
なっていて、前のコードとの兼ね合いがあるから、という部分も大きいと考えます。

最初のメロディは目指している先のCのコードとは1度で当たり前の当たり方なんですが、
アウフタクトで前のEのコードのところで奏でられているので、Eに対しては11度と
不安定になっている。次のDのメロディも目指しているDmにとっては1度なんですが、
前のCのコードにとっては9度。というふうにメロディが緊張→緩和をいちいち繰り返している
んですよ。次のBは前のBmも目指しているEも共に1度と5度と当たり前の当たり方ですが
その次の(つまりメロディが上がっている)C#は目指しているF#mにとっては5度なんですが、
前のEにとっては13度と不安定。次の(上がっていない)C#はアウフタクトもその先も同じ
F#mのコードで動かない(ちなみに5度で当たってます)のですが、その次のD(上がり目)
では目指すBmにとっては3度ですが前のF#mにとっては13度、とこれまた不安定。
つまり、メロディの上がり目でことごとく緊張→緩和というバックとの関係が作られているんです。

そしてサビでは一転してF#→G#→Aとメロディの形で1音ずつ上がっている。Aメロで
ゆっくり上がっていたのとの対比で勾配が増しているように聞こえる(実際は大した勾配で
ないのですが)それと順次進行の高揚感とでここの盛り上がり方は半端なく聞こえるわけです。
バックのコードとは1度→3度あるいは3度→5度と普通の当たり方をしてるんですが。ただし
Aの音が裏拍になっている、というふうにちょっとだけ一筋縄に行かないのですが。

それからメロディは下降進行(これも順次1音ずつ下がっている)を経てF#→G#→Aからダメを
押すようにB→C#と最高音まで登りつめます。ところがこの最高音C#という一番おいしいところが
バックのEのコードに対して13度と非常に不安定な当たり方をする。この当て方、マサムネさんは
時々使うんですが、使い方としては最後の五→一の解決のところの五のところで13度で当てる
んですね。その音は次の一の和音に対しては3度なので、ちょっと解決を先取りしているような
響きに聞こえる。なので不安定でありつつも丸みを帯びて聞こえるところで使うんですよ。
(代表的には「空も飛べるはず」の最後から2音目)

おっと、3曲だけでこんなに使ってしまった。あと2曲くらいでしょうか解説できるのは。
マイナーな曲ばかり続いたので、シングル曲にしましょう。先ずは「正夢」。


このAメロも「水中メガネ」のようにド→レと同じ音が順次上がっていく構造のメロディです。
ですが、アウフタクトではないですし、コードと複雑な当たり方をしているわけではありません。
メロディの上がり目も途中まではコードの変わり目と一致しています。最初のGはバックのGの
コードと1度、次のAはバックのDのコードと5度、次のBはバックのEmのコードと5度、と
まともな当たり方ですよね。ですが、EmのコードのところでメロディがBからC→Dと上がり、
次のCのコードのところでEまで上がります。ここでは手前のDの音がEmの7度とやや不安定
ですがEの音がCのコードの3度と安定する。ここで少しだけ緊張→緩和の構想が見られます。

実はここの部分、次のBメロの下がるメロディのところでバックのコードと不安定な残り方を
していて、こちらでのカタルシスのためにやや抑えめにしているわけです。そのせいか、ここの
Aメロ自体ではあまりカタルシスを感じないはずです。こういう辺りも非常に考えて、ただ
「上がるメロディだから高揚する」という単純な使い方でないことがお分かり頂けるでしょう。

最後はこれ。「運命の人」のサビを聴いてください。


このサビも「ドレミ」と順次上がっていく構造になっていますね。ただここは、その前の
Bメロの終わりが「B→C#→D」「C#→D→E」と上がっているので、その続きになっている
のが一つ。さらにAメロ・Bメロとメロディが細かく動いているのと対比でこのサビのところが
大きく動くように聞こえるのが一つ。もう一つはこれもアウフタクトになっているんですよ。
なのでDの音がバックのAのコードと11度で不安定、それがEはバックのAのコードと5度、
コードがDに変わるところでF#になって3度と、一応緊張→緩和の構造になっている。

そしてここからG→F#というメロディの動きを繰り返して(バックのコードが変わるので
当たり方が微妙に変わっていく)そこからF#→G→Aと上がるのですが、このAのコードが
少しフライングになっていて、まだBmのコードになっているところでこの音に到達している。
ここでBmに対してAは7度、次のF#mに対しては3度とここでも緊張→緩和をもたらして
いるわけです。

いかがでしょうか。草野マサヌネさんのメロディは、単に一音ずつ上がっているだけでなく、
そこに旨みをもたらすために様々な工夫をしていることがお分かりいただけたかと思います。
次回は、アルペジオを特集いたします。
posted by なんくい at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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