2016年10月17日

Spitz草野マサムネのメロディ10の秘密#5 引っかけ

先週からパソコンの調子が悪く、苦労しましたが、無事に復旧しましたので
これから頑張りたいと思います。

この連載もここからかなりマニアックな世界に入っていきます。(え、これまでも
マニアックだったって? これまた失礼いたしやした! でもこれからはもっと
マニアックだよ!!)この「引っかけ」という手法は語りだしたらキリがないのですが、
スピッツで言えばこういうヤツです。



このサビメロですよね。「♪春の歌〜」のところ。Aの音からG#→C#と降りるという。
これ、かなりヘンな音形ですよね。AからC#に降りる場合ふつうはE辺りを間にはさむ
のでしょうが、そこでG#に行くという。あるいはA→G#と来たらふつうはE辺りに
着地するのですが、そこから一気にC#に行く。こういうヘンな音形を形作る手法を
「引っかけ」と呼んでいます。つまりある音からある音に行く際に、途中にどんな音を
経由するか、それによってメロディの効果が変わってくるというわけです。

この「引っかけ」は90年代に入ってから、色んなアーチストがユニークな引っかけ方を
競うようになりまして。そのフロントランナーの一人が草野マサムネさんだったわけです。

こういう引っかけというのは音に対する繊細な感覚が反映されるところでして、ここで
作曲者のセンスが透けて見えるように私には思えます。例えば初期の曲に「魔女旅に出る」
という曲がありますが、そのAメロでFから1オクターブ上のFへと上がっていきますが、
そこでヨナ抜きを使っているんですよ。当然それは和の情緒を出す狙いもあるのでしょうが、
その後に抜いたEの音(ヨナのナ(第7音)ですね)をGからの下降メロディで使っているわけ
ですよ。そのバックのコードでDmで、そこで9度になるEの音を初めて使うことで効果を
増しているわけです。

じゃあもう一つのヨの方、つまりB♭の音はいつ出てくるかというと、サビの最後まで出てこない
んですよ。そして以前にも解説した「いるからね」のところで初めて登場する。それも最高音から
1オクターブ下へ移動し、そこへAの音とFの音を絡める。ここではA→B♭→Fというヘンな
音形を象っているのですが、その引っかけのためだけにB♭の音を使っているわけです。
並大抵のセンスじゃないですよね。

そして、これまた第1回で解説した「ハチミツ」もこの「引っかけ」の系譜に当たる曲です。


これはそれぞれ下降形の引っかけ、つまりF#→E→A・G→F#→G・E→D→F#という実に
ヘンな音形が並ぶように出来ていますが、下の音がA→G→F#と順次降りていて、上の音も
後半の2つのフレーズがG→F#→E→Dと順次降りているので、ヘンな形ながらメロディとして
成り立っているように聞こえるわけです。つまり、ギリギリの絶妙なバランスで出来ている。

次に解説するのはシングルじゃないのですが『ハチミツ』に収録されている「あじさい通り」。
この曲もサビが印象的ですが、「この雨あがれ」のところはF→Aと降りた後、再びF→Gと
上がる音形になっています。ここでもA→F→Gというヘンな音形が現れていますね。でも
これもきちんと裏付けがあって、ここに行く前にアウフタクトでC#→D→Eと上がっている
音形があるわけですよ。それによってF→Gという、前のAからするとヘンな音形が自然に
聞こえる。それでいてこのヘンな音形の効果が耳に残るように出来ているわけです。

またシングルではない曲ですが『インディゴ地平線』に収録されている「バニーガール」。
この曲もサビが耳に残りますよね。ここでも引っかけが絶妙に使われているんです。
サビの最初はE→G#→Aと上がって(ここも割とヘンな形ですが)そこからD→C#と下がる。
このA→D→C#という音形がたまらなくヘンですよね。(特に1回目はEのコードに対しても
C#の音を残して、シックスの音の効果を生んでいる)しかも、この音形が繰り返されるように
なっていて、イヤでも耳に残るように出来ているのもニクいです。

次はカップリング曲から。でもライブの定番曲「俺のすべて」。これもサビメロが印象的です。
原調はE♭minorですが、半音下げてDminorとして解説しますね。サビはD→E→Fと上がった後
1こ飛ばして最高音Aへと上がり、そこからB♭→Aと下がり、さらに上のGからFへと下がる。
A→B♭→AあるいはA→F→Gというヘンな音形の集まりなんですが、ここでのポイントは
バックのコードとの兼ね合いなんですよ。最高音のAになったところでバックのコードはCなので
6度とも13度とも取れる当たり方なんですが、ここでB♭に7度下がることで、その前のDやFの
効果も相まってCの上にB♭maj7のコードが乗っかっているように聞こえる。つまりこの音形に
よってAは13度と確定するわけです。しかもここでCのコードにとってのキモであるGをあえて
外すことでその不安定な効果を増しているわけです。その証拠に2回目のCのコードのところでは
目立つようにGの音をメロディに使っています。このように、コードとの当たり方を微妙に調節
してメロディのインパクトを生んでいるわけです。(「俺のすべて」は『花鳥風月』に収録)

またカップリングから(『色々衣』に収録)「船乗り」これはBメロがサビのような働きをしている
(おそらくCメロがそれを引き継いで〆る役割)そのBメロでA→Aと1オクターブ跳躍の後に
G#→Eと下がるのですが、これも不思議な音形になっています。しかもここはバックのコードが
AからDに変わるところなので、Eの音が9度で当たっている、しかもG#は真裏という面白い
当たり方をしているんですね。このフレーズ、二回目はG#→Eの後にDにまで下がっていて、
ここはまるで沖縄音階みたいです。

カップリングの次は近作から。『さざなみCD』に収録された「不思議」この曲はAメロも
ユニークなんですが、サビのインパクトある音形だけを見ることにします。ここの「恋の不思議」
のところはG→F#→G→C→G→Aとここまでさんざん見てきた音形ですよね。この後もこれを
下げた形でF#→E#(F)→F#→B→F#→Gとメロディが流れるのですが、ここまで来ると
ここでの引っかけは普通に非和声音として聞かれちゃう(従ってここはそこまでインパクトを
残さない)んですけど、メロディの端正さを強調してメロディのヘンさを中和しています。

きりがないのであと1曲にしますね。最新アルバムのリード・トラック「醒めない」です。


ここでも、取り上げようとしている部分はもうお分かりでしょう。「ギターはアンドロジナス」
と歌っているところですね。ここではしくこいぐらいにD→C#→G#という音形が繰り返されます。
DからG#も真裏なんですが、そこにC#(これはバックのDのコードの7度でメジャーセブンを
表す音でもある)をはさむことでインパクトのある音形になっていますよね。

メロディは端正にするだけが能じゃない。こういうインパクトのある引っかけを入れることで
インパクトを残すことが出来る。スピッツはそこのところのさじ加減が絶妙に上手いので、是非
メロディを作る方は参考にしていただきたいと思います。

次回はメロディの呼応というのをやります。典型的には平行移動って奴ですが、こう言ってよく
分からない人は次回に詳しく解説します。
posted by なんくい at 14:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
スピッツ大好きで興味深いです
次回も待ってます
Posted by at 2017年01月27日 14:57
コメントありがとうございます。通称でいいので、何か名乗って頂けるとありがたいです。

スピッツの連載も途中でしたね。忙しくて途中で放置しているネタだらけで恐縮ですが、時間をかけて片づけていくつもりなので、気長にお待ちください。
Posted by なんくい at 2017年01月31日 11:19
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