2017年04月30日

サブスク時代の洋楽楽理解説 #15 Curtis Mayfield「Move On Up」

今月の楽理解説はカーティス! 先月のスモーキーに続いてソウル界の
大物が続きます。

Curtis Mayfieldは1960年代まではImpressionsとして、1970年代以降はソロとして
多くのヒット曲を輩出したシンガーであります。Impressions時代には、公民権運動の
象徴的ヒットとなった「People Get Ready」(当然当ブログ的にも重要曲です)が有名で、

ソロ時代はStevie Wonderなどと共にニュー。ソウルというムーブメントの旗手の一人
として有名で、現在は越智志帆さんのソロ・ユニットであるSuperflyという名前は実は
カーティスの代表作のアルバム・タイトル(もともとは同名映画のサントラ)から採られて
いることは有名な話です。(言わずもがなは話ですが、知らない人も多いかもなので)

今回取り上げるのは彼の1stソロアルバム「Curtis」に収められた「Move On Up」という
楽曲です。これもカーティスの代表曲なんですが、詳しい方はこの曲をやると聞いて
渋い選曲に感心して頂けたかなとは自負しているんですが、同時に「これをどうやって
楽理解説するんだ」と疑問を持たれた方も多いでしょう。聴いてもらえれば分かりますが
この「Move On Up」はループものというか、ずっと同じ4小節のコードを続けていく
タイプの曲だからです。まあ先月が「More Love」という比較的動きのある曲をやったので
その対極をやってみたかったというのと、Curtis Mayfieldという多面的な魅力を持つ
アーチストをプレゼンするのにこのアプローチかなあと思っているのです。

では、楽理解説に入ります。皆さん聴いて頂けましたか? 非常に高揚感のあふれる
素晴らしいナンバーですよね。イントロのスネア2発からいきなりトップギアに入る
かのようにブラスのリフが派手にカマされる。印象的なのは非常に細かく入っている
パーカッション。この時期のカーティスの音に特徴的なパーカッション(コンガが
中心になってるんでしょうね)が激アツな音像づくりに大きく貢献していることは
論を俟たないと思います。カッコイイですよねー。

ところがこの曲。実はトップギアなのは最初のうちだけで、後半に行くに従って別の
表情を見せてくるのです。それも、決して後半に失速していくというタイプのもの
ではなく、後半までそのテンションを保ちつつも、別の魅力が立ち上がってくる、
という。その魅力とはループによる後効きの高揚感なんですが、冒頭のインパクトが
薄まってくるという自然の摂理を、その後効きのインパクトが補うという構造に
なっているのが、この曲のユニークなところだと考えます。(なので、アルバムに
収められているExtended Versionをネタにしているわけです)

先ずは、この4小節のコードが素晴らしいと思うのです。この4小節とは
  |Gmin7・Fmin7|Fmin7|Gmin7・Cmin7|Cmin7|
というものですが、先ず奇数小節の2拍裏でコードがチェンジしているのが
ポイント。食い気味にコードが変わることで、ずれのポリリズム的なリフの
展開が強調される。ボサノヴァ的な「タタタ・タタタ・タタタ・タタタ・タタタタ」
というリズムが想起されるのですが、当のブラスのリフはそれを少し裏切って
シンコペーションを基調としたリズムを刻む。そこへ2拍4拍を強調したリズム隊
の動き。非常にリズム的に高度なことをやっています。

そして、その少しだけ挟まれることになるGmのコード。これ、Cminorだとすると
五の和音のマイナー版になるんですよね。むしろ平行長調であるE♭majorの三の
和音と取った方がいい響きになる。ちなみにCminorだと五→四→五→一という
伝統的なマナーのコードになるのですが、E♭majorだとすると三→二→三→六と
いうマイナー展開的なコードとなる。そういう多義的な意味合いを持つコードの
ループなんですよ。この曲が不思議な明るさを持つのは、そういうコードの曖昧性
にも起因しているわけです。

さらに、そこに絡むブラスの音も、いきなり最高音のCから始まるのですが、これが
Gminorの11度という驚異的な当たり方をしているんですよ。ハイトーンの緊張感
だけでなく、和音的にも非常に緊張感の高いトーンでもある。それを裏打ちするか
のように、コードの変わり目のFmのところにもB♭(これも11度)からG→E♭と
アルペジオで降りて、この響きがテンションコードであることを明かす。このブラス
が持つ高揚感は、今解説した面も大きく貢献しているわけです。

そして、基本的にはこの曲の前半部分はそのブラスの高揚感溢れるリフのパートと
歌のパートとが交互に表れるというつくりになっていますが、そこでも細かな音の
出入りがあって、同じことの繰り返しという単調な展開にはならない。そこが、
Curtis Mayfieldというアーチストの巧みなところだと考えます。この人の緻密さは
こういう曲にこそ、現れるんだよなあ。

というわけで、順にその展開の妙を見ていこうと思います。
 最初は8小節(2回し)ブラスのリフによる高揚感溢れるイントロがあり、
 次に16小節(4回し)歌のパート。ここは、前半8小節(バース的)と後半8小節
  (コーラス的)に分かれます。カーティスの歌も、2回し目でいきなりCに行き、
  緊張感とセクシーさを醸し出してくれます。そして3回し目からの「Move On Up」の
  コーラスは、そのCの音からE♭→Gとアルペジオ的に上がる音形。しかし11度から
  アルペジオ的に上がると、Gのところで主音に戻ってくるのですが、そのGになる
  ところでFmにコードが変わり、そこでFの音に対して9度になる。クールですね。
  個人的にはその前のフレーズでE♭(Gのコードに対して13度。でもこの曲では多く
  この音をベースにフレーズを作っている。テンションが当たり前になっているのです)
  からのF(ここでコードがCmに変わっていて、ここも11度になる)という歌の
  フレージングがタマんないです。
  また、ここのパートでは、合いの手がストリングスであることにも触れておきたい。
  それも、前半8小節では派手なリフで合いの手を打っていますが、後半はチェロ辺りが
  低温でコードをなぞっています。
 次に8小節のブラスのパート。変わり目から少しずれてクラッシュシンバルが派手に
  叩かれるのが印象的。
 次が32小節(なんと8回し)の歌のパート。つまり2コーラス分一気に行くわけです。
  前半の16小節では今度はブラスの合いの手なんですが、それも前半の2回しつまり
  バースではトロンボーン(サックスも入ってる?)基調のリフなんですが、後半の
  2回しつまりコーラスではそこに1オクターブ上のトランペットが加わる。
  それが一転、後半の4回しではブラスの合いの手が消えて、ギターのせわしない
  カッティングが目立って聞こえるようになる。また、この辺りからボーカルの
  フレーズも長くなり始める。じっくり歌い込み始めるんですねエ。
  あと、最後の2回しにはストリングスが合いの手を入れ始めます。先ほどはバースで
  入れていた合いの手を、今度はコーラスで入れています。
 そして8小節のブラスのパート。後半でパーカッションが自由な動きをしている。
 次に16小節の歌のパート。ここではブラスが合いの手を打っているが、特に前半の
  フレーズが変わっている。そして後半の2回しでは、2回目のコーラスの時の
  フレーズの1オクターブ上が加わった、より派手な合いの手を入れている。
 そしてまた8小節のブラスのパート。
 次の歌のパートはいきなりコーラスを3回し(12小節)。2回し目からトロンボーンの
 合いの手が入り、3回し目でその上にトランペットが加わる。
 そしてまた、8小節のブラスのパート。
 ところが、次のところでは歌は入らず(吐息のようなものが聞こえる)ブラスの合いの手が
  入るパートが8小節(2回し)。それも2回し目にはオクターブ上のトランペットが
  加わるパターン。
 そして、8小節のブラスのパートの後に、ブレイクが入るのです。

このブレイクから後半戦に入るのですが、ここのブレイクのパートではコードがA♭→E♭
というこれまでにないコードが入ります。これは、E♭majorだと四→一という変終止的な
まとまり方なんですね。長調感を出して終わるのかと思うと、それをうらぎるかのように
スネア2発が入り、後半に突入していくわけです。ヘンな終わり方、と思ったとたんに
それを裏切る展開。クールですね。

ところが後半は実は歌は一切入らないんですよ。いわゆるインスト・パート。それもいきなり
8小節のドラム・ソロ〜次の8小節でパーカッションが入り、次の8小節でベースとコードが
入り、そこから延々とサックスソロ、という展開になるのですが、ここでも前半に詳しく見た
ような細かな音の出入りがあります、それが特徴的なのは、サックスのソロがメインというより
出入りのある楽器の一部であり、音の出入りとともにいつのまにソロが止んでしまっています。
そして音が薄くなったかと思うと別の音が入り、というふうに波の満ち干のように音が次から
次へと出入りを繰り返す。何というか、色んな音の組み合わせを試すかのように、多彩な
音の出入りが愉しめるんですよ。それが、飽きさせない展開と、持続する高揚感を生んでいる
のかなあと考えます。

カーティスという人は優れたソングライターであると同時にアジテーターでもありました。特に
70年代の彼の楽曲はそのメッセージと切り離して語るべきではありません。(いやそれは、
60年代後期のImpressionsについても言えるかも)是非、Curtis Mayfieldの音楽にノックアウト
された方は、彼の音楽が生まれた背景にも思いを馳せて頂きたいなあと念願します。

ソウル界の大物が続いたので、目先を変えましょう。来月はDuran Duranです。2枚目の
「Rio」に収められた「Lonely In Your Nightmare」という非常に地味な曲を楽理解説
する予定です。デュラン・デュランを結構詳しい方でないと知らない曲だと思うので、
是非とも予習をお願いいたします。
posted by なんくい at 15:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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