2017年05月09日

Spitz草野マサムネのメロディ10の秘密#6平行移動

非常にごぶさたしてしまっていたスピッツの連載も再開いたします。
といっても、ここから先は細かすぎて需要がないんじゃないかなあ。
ボカロPが10人くらい? まあなるべく分かりやすくするつもりですが。
(著作権の壁があるので限界はあるんだけどね)

今回は平行移動というものを特集します。平行移動というのは、あるフレーズ
を続ける時に、音形はそのままに音の高さを変えるというもの。具体的に
簡単なフレーズを作ってみたので、聴いてみて下さい。

parallel movement01.mid

最初のフレーズがG→F→E→D→C→D→Eとメロディが動きます。それに対して、
次のフレーズは2度上に移動させています。Aから始まっていますよね。そしてその次の
フレーズはさらに2度上に移動させていることが分かって頂けますでしょうか。ただ、
一般的に3番目のフレーズのところで少し変えて4番目のフレーズにつなげるように
メロディを作ることになるのですが。

ちなみに平行移動というのは上へ移動するとは限りません。先ほどのメロディを、今度は
下に2度ずつ移動させるとこうなります。

parallel movement02.mid

草野マサムネさんは、この平行移動の名手と言って差し支えないでしょう。これまで
発表した曲の方々で見ることが出来ますし、そのバリエーションも豊富です。
この連載の1回目で取り上げた「サンシャイン」のサビもB→AからC#→Bと2度上
への平行移動ですし、第3回で取り上げた「夕陽が笑う、君も笑う」のサビも、2度下
への平行移動です。同じく第3回で取り上げた「水中メガネ」も、2小節単位の
フレーズと捉えると、2度上への平行移動を3連チャンで行っていると解釈できます。

こういう平行移動は『とげまる』収録の「聞かせてよ」のAメロ(2度上への平行移動)
や同じく『とげまる』収録の「えにし」のサビ(こちらは4度上へ平行移動)など、
枚挙に暇ないほどなんですが、ただ純粋に平行移動させるだけなら、その手法を
学ぶのは非常に簡単です。これから紹介するのは、少し複雑な処理をしているもの
です。ここからはかなりマニアックになります。

その前に、先ずは理論的な話を少々。ここまで何の断りもなく「平行移動」と呼んでいますが、
実際に純粋な平行移動をさせると周りの音とぶつかってしまうのがオチです。

parallel movement03.mid

そこで周りの和音を変えるとすると、今度はかなり不自然なコード進行になってしまいます。
(これはこれで味はあるんどえ、使いようによっちゃあ効果的ですけども)

parallel movement04.mid

そこで、普通は周りのコードに合わせてメロディの音高を微妙に調節しています。
上の一番最初の例の場合は、2回目のフレーズで3番目の音を半音下げる、つまり
ここだけ長2度移動でなく短2度移動させることで自然な音になります。普通は
半音単位で考えるのでなく、純粋にその調の構成音の中で平行移動させる(つまり
楽譜の上で平行移動させる)と自然になります。ただし、周りのコードで借用和音を
用いたりする際には、それに合わせて微妙に上下させたりします。

そのような例の代表としては「ロビンソン」のBメロでしょうかね。



このBメロは、最初のフレーズから2番目のフレーズへは2度下へ平行移動させてあり、
(最後だけ変えていますが)3番目のフレーズは最初と同じ高さへ戻っているのですが、
その時に周りの和音に合わせてAを半音上のA#に変えてあります。(「ありふれたこの
魔法で」の「ま」のところ)

さらにマサムネさんは、周りの和音との絡みで純粋な平行移動でない改変をしばしば
行っています。そのやり方が、実に理に適っているんですよ。

先ずは、ファンの間では殿堂入りするくらいの人気曲「猫になりたい」(『花鳥風月』に
収録されています)のサビから解説します。このフレーズは、基本は2度上への平行移動
なのですが、1音だけ平行移動せず「残して」ある箇所があるんですよ。「君の腕の中」
の「で」のところ。ここは本来F#のところEになっている。それによってA→C#→E
→G#とメジャーセブンの音形になっているんですよ。

実はここの部分、キモになるのはEの次のG#のところでして。ここでコードがA→F#m
に変わっていて、そこでベースに対して9度で当たることになる。その音を効果的に響かせる
ために、その前の音をF#からEにして、ずっと3度で音が上がっているようにしてある。
それは、A→F#mという和音もちょうど3度下の似た和音になることもその効果をもたらす
要因になっていたりします。

さらにもう少し周りを見渡すと、サビのコード進行はE→B/D#→C#m→E/B→Aといわゆる
カノン進行でずっと2度ずつ下がってきているのですが、この箇所になると3度下に下がる。
そのコードの動きの変化も、ここでメロディの音形が微妙に変わることを裏付けていると
いってもいいと考えます。例えばここで、最初のメロディの方を2番目のメロディに合わせて
3度ずつ上がる構成にしても(具体的には「猫になりたい」の「な」のところを、E→D#に
するということ)かえって不自然で全然効果的にならないんですよ。それは周りのコードとの
絡みで、コードの変わり目のF#(2回目のG#にあたるところ)がバックの音と自然に溶け込む
音だからです。ここはむしろ、次のG#の方がコードの6度に当たる音で(ちなみにベースとは
4度。転回形だからそうなります)ここで丸みというかまろやかさを生んでいる箇所なんです。
こういう1か所の改変だけで、劇的に効果を生むわけですよ。

もう一つだけ、特殊な平行移動を見ておきます。同じく『花鳥風月』に収められた「旅人」の
Bメロ。ここは平行移動と残す箇所とが混在している、非常に特殊な呼応の形です。最初の
フレーズはEで始まり、A→G#→F#という上の音を行き来してからC#→Bと下がるのですが、
次のフレーズはその下がったBから始まり、次のA→G#→F#のところは同じ高さに残し、
下がるところはB→Aと2度下に平行移動しているんです。結果非常に奇妙な音形になって
いるんですが、よくよく分析してみると非常に理に適っていることが分かります。

先ず最初のB→Aという上がり方は7度跳躍になりますね。そしてA→G#→F#のところは
メロディは同じでも周りのコードが違うので効果が異なるわけです。最初のコードはF#mで
従ってAが3度F#が1度と自然にコードと溶け合うのですが、2回目の時のコードはEで
従ってAは11度F#は9度と非常にコードから浮く危険な当たり方をしているんですね。

ここでもし、最初のBを除く全部を同じ高さにしていると次のC#→Bも奇妙な当たり方を
します。(6度→9度)でもそこではそうせずに、平行移動させることで穏当な当たり方を
するようになっている。つまり、危険な当たり方をしているだけでは回収されないんですね。
緊張→緩和という動きをもたらすことで音楽は落ち着きを見せるというか、ここでメロディは
きちんと収束させないと訳が分からなくなる。ほどよく実験的でないといけないんですね。
その辺のさじ加減が、マサムネさんは絶妙なんですよ。

今日はこのくらいにしておきます。非常に細かくて訳が分からなかったかも知れませんね。
でも、メロディを実際に作っている方なら、非常に参考になる記事なのではないかと密かに
自負しております。(なので、仲間のボカロP10人ほどにだけ通じれば満足ですww)

この連載、さらにさらにディープになります。次回も呼応ネタにします。
posted by なんくい at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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