2020年12月06日

2020年のアイドルシーンはアルバムの時代だった!

という謎の総括を、今年が終わろうというこの年にしようというわけですよ。(実はこの記事は、ひそかに「アイドル楽曲大賞」に連動したものとなっています)

年末になって今年一年を振り返る企画が出揃い始めていますね。音楽界にとっては、新型コロナの影響でライブ活動が大きく制限され、ことアイドル界は接触系のイベントが大打撃を食らい(代わりにインターネットサイン会とかが主流になったみたい)解散するアイドルも結構いたみたいです。(その流れは一昨年くらいからあったので別に驚きはしませんが)

ところが、そんな今年がアルバム豊作の年になるなんて、誰が想像したでしょうか。というより、今年アルバムが豊作だよって、よほどの事情通でないと知らない世界なのではと思うわけですよ。というのも、フィロのス、ukka、脇田もなりといった、現在アイドルで楽曲派と言われる主流どころがあまりアルバムを出していないんですね。かなり無名に近いところが、充実のアルバムを出している。一昨年あたりからの解散の流れもあって、アイドルシーンも代替わりが起きていることもあるのかも知れませんが。

実は去年の年末に「ビヨファス」の特集をした時に「アイドルの世界観を表すのにアルバムの方が可能性がある」という話をしました。BEYOOOOONDS自体はイノベーティブな存在で、あの方法論が地下に降りていくのはまだ先の話でしょうが、それとは別の文脈からアルバム・ブームが降って湧いたような印象がありますね。(皮肉なことに、そのBEYOOOOONDSに今年はリリースがなかったのですが)

御託を並べるよりも、実例を示した方が早いですよね。私が個人的に良かったと思うアルバムを、これから列挙していきますね。(あくまで個人的に愛聴したものなので、漏れも多いです)

すべてはここから始まった!という印象なのが、川上きららさんの「16歳のアリス」
16歳のアリス - 川上きらら
16歳のアリス - 川上きらら

私はこのアルバム、というより川上さんの存在自体を「南波一海のアイドル36房」で知りました。当時はコロナの影響を受け始めた頃で、川上さんのゲスト出演も敵わず、音のみでアルバムの特集をしていました。その時のリスナーさんのコメントに「おれが新型コロナで死んだら、このアルバムを棺桶に入れてほしい」というのがありましたが、そのコメントがこのアルバムの最も優れた批評になっている気がします。(笑)

このアルバムが素晴らしすぎて、思わず記事にしてしまったくらいでしたが、その後辿って聴いていくと、この歌い方が確立されたのは最近、というより少しずつ成長してこの感じになってきてるんだなということが分かりました。その意味でも今後が楽しみですが、「うさぎのみみっく」自体もアルバムの制作を控えていて(クラウドファンディング、参加しましたよ!)そちらの動向も注目です。

音は、彼女の成長を感じられるように、少し昔のものと最近のものを比較できるようにしますね。





次はるなっち☆ほしに行きましょう。「きらめきアドベンチャー」というフルアルバムが出ました。
きらめきアドベンチャー - るなっち☆ほし
きらめきアドベンチャー - るなっち☆ほし

るなっち☆ほしさんは去年に「shibuya street journal」という楽曲を楽理解説しましたが、その曲も収められています。ということは、このフルアルバムは数年にわたる彼女の活動の総集編と言っていいでしょう。代表曲はあらかた収録されているみたいですし。

このアルバムを聴いて強く感じるのは、今現在の地下アイドルシーンの豊潤さ。色んな人が関わっているのですが、1曲も駄曲がない。良曲のつるべ打ち。いくつかの楽曲は名曲と言って差し支えない。雑多な楽曲が並んでいながら、取っ散らかった印象もない。ほど良いごった煮感を味わえる。



この曲を聴いて頂くと、私の言う「地下アイドルシーンの豊饒さ」の意味が分かってもらえると思います。いいでしょ。これでもアルバム屈指の名曲じゃないですからね。このクラスの曲がごろごろいますからねえ。

そして、歌い手であるるなっちさんの意外(失礼?)な器用さ。歌うのが難しいと思われる、タイプの異なる楽曲を乗りこなしていく。なんかゲームをクリアする感じ? 難題と言える楽曲を次々とあてがわれて、それをクリアしていく。なんか応援したくなるんだよね。


次は、サンダルテレフォンに行きましょう。今年の顔と言ってもいいでしょうね。
Step by Step (A盤) - サンダルテレフォン
Step by Step (A盤) - サンダルテレフォン

サンダルテレフォンの躍進は、アイドル界の今年の重大ニュースの1つに挙げてもいいでしょう。特にアルバムに向けて「Shape the Future」「Step by Step」が連続公開されたところは、今年のハイライトシーンの1つと言えましょう。





この2曲が公開された頃って、界隈でも「サンダルテレフォン、ヤバいらしいぞ」という評判が広がり始めた時期で、そうして上がっていった期待値を軽々と超えていった。いやあ爽快でしたねこの快進撃は!

しかし、冷静に振り返ってみると、別に奇をてらった訳でなく、非常に王道の路線を持ってきた(それが良かったというのも一つあるけど)だけで、楽曲も、良曲であることは間違いないけれども、他と比べて頭抜けた名曲だったというわけでない。では何故、今年の彼女達が図抜けた存在になり得たのか。それは、今の彼女達のモードと、楽曲の方向性がガッチリかみ合ったからだと思いますね。そういう奇跡的な瞬間はいくつかあって、近年ではつりビットの2nd近辺がそうでした。楽曲はずっと良かったつりビットでしたが、ガッチリかみ合ってたのはその頃でしたね。

では、彼女達の今後はどうなっていくのか。一時のあだ花に終わるのか、それともさらに突き抜けていくのか。そのカギを握りそうなのが、カップリング曲を担当しているmeganeさんの存在でしょう。アルバムを聴いた人ならmeganeさんの楽曲の重要性は分かることでしょう。千葉兄弟の手がけた曲が光とすれば陰。主役を食わないようにしつつも、アルバムトータルの色付けとアクセントとして非常にいい仕事をされている。それでいて、さりげなく冒険心溢れるアレンジワーク。音楽心のあるリスナーを唸らせるいぶし銀の仕事っぷりです。

今meganeさんを激賞しましたが、その理由は今後のサンダルテレフォンのキーマンだと考えているから。主要メンバーや運営と長い付き合いで、彼女達を知り尽くしている彼が、次にどういう手を打ってくるのか。注目しましょう。


次は天野なつさん。アルバム「Across The Great Divide」が出ました。これも面白かった。
Across The Great Divide 通常盤 - 天野なつ
Across The Great Divide 通常盤 - 天野なつ



彼女達のバックにいるのが福岡のバンドシーンの面々らしく、このアルバムも根底にロックがあるんですね。先ほどるなっち☆ほしさんのアルバムを「地下アイドルシーンの豊饒さ」と表現しましたが、こちらは地方のバンドシーンの豊饒さと言いたくなります。(福岡はバンドの強い土壌ですしね)楽曲ごとによくもここまで豊富なアイデアをぶちこめるもんだと感心してしまう。どの曲も、これまで聞いたことのないテイストに仕上がっている。これだけの雑多なアイデアを一つにまとめ上げる手腕(一人というより、バンドで作り上げていったのでしょうね)に感服するとともに、ロックってそういう雑多なものを取り込めるジャンルなんだなあとロックの可能性にまで思いを馳せてしまいました。アルバムの統一感もいい感じで、終わり方がそっけないところが唯一の欠点ですかね。それさえなければ「名盤」と呼んで差し支えない出来でした。

ロックが根底にありつつ、雑多なアイデアを取り込みつつポップに仕上げる、という意味では80年代後期から90年代にかけてのガールズ・ポップに似たものを感じます。天野さんはその声質から谷村有美さんを彷彿とさせます。ただ。谷村さんはその後表現者として覚醒していくわけですが、果たして天野さんはどうなのか。アルバムとは別に公開されたシングル「願い」にその萌芽が見られると考えますが、如何でしょうか。(しかしこの曲、リリースが発表されたのに、買おうと思っても売ってない。アイドル楽曲大賞にもエントリーされていないし。どうなっているのだろう? 入れば間違いなく、今年のベスト3には入ってくるのに!)




ロックということで言えば、武藤彩未さんのミニアルバムも良かった。最近プッシュしていますが。
あの頃、君に渡したプレイリストを今でも僕はくちずさむ。 - 武藤彩未
あの頃、君に渡したプレイリストを今でも僕はくちずさむ。 - 武藤彩未

活動再開してから、彼女のルーツである80年代歌謡曲を前面に押し出したアプローチを基盤にしていましたが、今回のミニアルバムは90sのインディ・ロック路線へ。でもこれがいいんですよ! リードトラックの「ベティ」を聞いてもらえると分かりますが、この路線でアルバムを突っ切ってくれています。



これはもう、90年代にいたキュートな女性ボーカルを擁したバンドという趣ですね。昭和歌謡のカバーを今も続けているからも分かる通り、80年代の歌謡曲は彼女の活動の柱であり続けているのでしょう。そしてそこから90年代のオルタナ・ロックへの流れというのが彼女の黄金律として確立した。そういう記念すべきミニアルバムだと位置付けたいです。3月のミニアルバムのが曲をバンド形式でライブしているのを見ると、サウンド的にも基盤を固めたなという印象があります。ここからブラスやストリングスを入れて華やかになるのも一つの方向ですが、基本線としてバンドサウンドも合ってるのが分かったので、ここから色々アレンジできそう。(ストリングスやブラスを入れるためには売れないとね)




こういったトレンドを意識してなのか、Negiccoのソロ勢もミニアルバムの発売を精力的に行っています。今年冒頭に出たかえぽのフルアルバムは、ここまでのソロ活動の総集編的意味合いでしたので、今回の記事の文脈では秋に出たミニアルバムですね。
秋の惑星、ハートはナイトブルー。 - Kaede
秋の惑星、ハートはナイトブルー。 - Kaede

Negicco関連のアルバムがいいのはもはやデフォルトなので別に驚かないですが、昨今のアルバム・ブームを意識しているのか、ミニアルバムで徹底して世界を作り込んできている印象があります。特にこの「秋の惑星、ハートはナイトブルー。」は出色の出来。ここまで取り上げてきたアルバムとも共振するような落ち着いたテイスト。今のアイドル界のトレンドとはかけ離れていますが、いやむしろこれからの動きをリードするかのような攻めた試み。Negicco界隈は周りの評価云々は気にしなくていい立場(ある程度安定した顧客は掴めているわけだし)というのもあるかも知れませんが、志ある人達に勇気を与える一枚であって欲しいなあと思いますね。

一方で、Nao☆ちゃんもソロとしてミニアルバムを出しました。
gift songs - Nao☆ (Negicco)
gift songs - Nao☆ (Negicco)



もろ80sニューウェイヴな「射抜け!Midnight」を聞いた時には興奮しましたが、さすがにこの路線はこれ1曲でした。むしろ初のミニアルバムということで、Nao☆ちゃんの人柄が全編に感じられる、ほっこりしたシアワセがじんわりと広がるようなアルバムになっています。その意味では、アルバムを象徴するトラックは、実は「向日葵の歌」なんだけどね。(でもリードトラックとして「射抜け!Midnight」を持ってくるのは正解だと思う。みんなビックリするもん)これから色々出していく中で、ちょっとした遊び心が出てくるのに期待です。

トリはRYUTistですね。待望のアルバムが発売されました!
ファルセット - RYUTist
ファルセット - RYUTist











このアルバムへの私の期待値は非常に高かったです。だからなのか、初めて聴いた時には拍子抜けしたというか、ちょっと散漫な印象を受けてしまったんですよ。楽曲の強度は問題ないですから、曲順なのかなあとか、色々考えました。ところが、先日の配信ライブを観て「謎は解けたよ」となったのでした。

考えてみれば「青空シグナル」が2年前の春の曲なんですよね。その頃の名曲を連発してきた時期と、今年出た新曲群とは、ちょっとモードが違うんですね。その異なるモードで制作された楽曲を無理やり1枚にまとめようと苦心した産物が、今回の「ファルセット」なんですね。ですから結論としては2枚に分けてリリースすれば良かった、という話になるのですが、予算とかの問題もあるでしょうしね。もっとも、ライブを観る限り、今の彼女達は完全に新しいモードを血肉化していて、そのモードから古い楽曲群も料理できる段階に入っております。ですからライブを観て、という話になるのでしょう。ちょっとネガティブなことを書いてしまいましたが、怪物アルバムであるのは間違いないですし、1曲1曲租借しがいのあるアルバムだと言いたいです。今書いてきたような事情があるので、くれぐれも一聴した印象で切り捨てないでくださいね。

さて、今年の「アルバムの時代」というのをどう位置づけるのか、という問題ですが、実はCDというのはとうに死に絶えた文化となっているのは皆さんもご承知のことでしょう。というより、サブスク文化がようやく浸透してきていて、今回紹介したアルバムも、サブスクで聴けるものもたくさんあります。一方で、通販でしか買えないとか、それこそ36房の世界もあるわけで、実はこの辺りにタワーを始めとするCDショップの未来があるのかな、なんて想像したりします。地下アイドルを始めとして、CDショップは同人販売に近いものとなり、メジャーな人はサブスク。そして趣味的な人がアナログも出す、というふうに、近未来的にはなりそう。(そう考えると「36房」みたいなものを長年やっているのは、先見の明があったのかも。というのは嘘だけど)今回紹介したアルバムを、私自身はすべてCDで買いましたけれど、もはやいつまでCD買ってんだ、という時代になってきているのも感じます。

ただ、アルバムという単位はまだ可能性があるように感じますね。もっと楽曲単位とか、プレイリストみたいになってくるかと思いきや、アーチストがアルバムという世界観を作り込み、それをリスナーが愉しむ、という文化は意外と残っていきそう。2020年に突如花開いた、アイドルのアルバム豊作の時代、という今回の記事で取り上げたアルバム群から、そういった未来へのヒントが垣間見える気がします。


追記
アイドル楽曲大賞の投票はこうなりました。

☆メジャー部門
1位 最高傑作 / MELLOW MELLOW


2位 なんと!世界公認 引きこもり! / でんぱ組.inc


3位 記憶 / イヤホンズ


4位 いちじく / 田村芽実


5位 なんで? / フィロソフィーのダンス


☆インディーズ/地方アイドル楽曲部門
1位 射抜け!Midnight / Nao☆ (Negicco)


2位 ねがい / テレパシー・モーニング

3位 ベティ / 武藤彩未


4位 ALIVE / RYUTist


5位 ハローグッバイ / 最高じぇねれーしょん


☆アルバム部門
1位 『ファルセット』 / RYUTist

2位 『16歳のアリス』 / 川上きらら

3位 『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』 / Kaede (Negicco)

☆推し箱部門
サンダルテレフォン





ベスト5やアルバム部門に入れられなかったサンダルテレフォンをまさかの推し箱部門で選ぶという反則技で(でも今年の顔は彼女達だと思うもん)何とか乗り切った今年のセレクションでした。今年は、メジャーで推し曲がなくて難航する例年と違って、豊作すぎて選ぶのが難航しました。考えてみればリリスクもエビ中も入っていない。でもこのセレクションは自信があるのですが、いささか評論家的かも知れません。一方で好みがだだ洩れなのがインディーズ部門。私という人間の好みのラインが明確に分かるでしょうね。さ、これからハロプロの投票をするか。
posted by なんくい at 15:47| Comment(0) | 音楽とは | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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