2017年09月30日

サブスク時代の洋楽楽理解説 #19 Paul Simon「Kodachrome」

月イチ連載の洋楽楽理解説。すっかり秋めいてきましたが、そんな時節にふさわしい
かも知れません。今回はPaul Simonですね。Simon & Garfunkelとして有名かも
知れませんが今回お送りするのは、ソロ初期の曲です。

この曲は「僕のコダクローム」という邦題がついていて、コダック社のフィルムを
題材にした曲なんだそうです。今のデジカメの時代にはなじみがないかもですが
(実際、2010年に販売を中止しております)昔は写真というものはフィルムに映し、
それを現像していたんですね。それの、当時の最新鋭が、このコダクロームだった
そうです。

そうそう。なぜかSimon & Garfunkelでのライブ音源が貼れる状態でありました。


原曲よりもゆっくりめですけども。原曲は非常に軽いビートで、めくるめく展開が
持ち味の曲なんです。Paul Simonの才気走っているさまがよく分かる楽曲だと思います。

では、始めましょうかね。イントロのコードはこうなっています。
 |E|E|A|A|F♯m|B|E|F♯・B|

裏拍(2拍目と4拍目)を強調したアコギのバッキングが印象的ですが、それ以外は
控えめのアレンジですね。ウーリッツァーの柔らかい音色と、Aのコードの時の
ベースライン(ここでA→C→C♯→Eという動きをするのでここでちょっとブルー・
ノートっぽいニュアンスが入る)と、途中で細かいドラムのビートが入り込んでくる
のが印象に残るくらいでしょうか。

そして、そのコードに乗っかってバース(Aメロ)が始めるのですが、ここからして
少し一筋縄でいかないんですよ。その辺を、コードを拾いながら解説しますね。
 |E|E|A|A|F♯m|3/4B|4/4E|F♯・B|
 |E|E|A|A|F♯m|B|E|
なんと、6小節目が1拍少ないんですよ! ここ、4拍目にアウフタクト的に食ってる
だけかなあと思ったら、ここだけ4分の3になっているんです。ここ、そこそこインパクト
ある箇所ですが、それよりもそういう拍子のトリックをsんなり聞かせてしまうところが
スゴイなあと思いますね。

後半は4分の3にならずにフツーに進むのですが、ここは1小節少なくなって次のコーラスに
入っていきます。ここの辺も、作曲する立場からするとニクい演出ですね。

そして、コーラスです。ここも非常にユニークです。例によってコードを拾いながら
細かく解説していきます。(かなりマニアックかな)
 |A・C♯|F♯|Bm|E|A|D|B|E|
 |3/4A・C♯|4/4F♯|Bm|E|A|D|B|E|

まずここで、イントロからのEmajorからAmajorへ転調しています。長4度上への転調
(いわゆる下属調への転調。シャープが1こ減る形です)なので、気づきにくい転調かも
知れませんね。しかも、一の和音からの三と六の和音がいずれもメジャーになっている。
これはまあ副五の和音でして、次のBm(二の和音)へ向かおうとする動きが強調される。
まあC♯とF♯のところは和音的には緊張、そしてBmで緩和となるのですが、それよりも
私が言及したいのが、ここでシャープが1個少ない調へ転調しておいて、シャープが多い
和音を借用しているところ。ここも転調のカモフラージュというか、色彩的にバランスを
取っている効果なんですよ。絶妙ですね。

そして、1小節目から4小節目にかけて、そういう副五をはさみながら結局五の和音へ解決
していくのですが(正確には解決の1歩手前)後半の5〜8小節は、そこからさらにD進行
を続けて一→四へと進む。ここで、さらにどこへ行くのだろうと一瞬戸惑わせます。だって
ずっとD進行を続けるとこれまた転調していくことのなりますものね。ところが、Dの和音
(四ですね。ここまでで一番シャープの少ない和音)からBへコードが行くんですよ。これは
二の和音ですが、一度目に使っているBmでなくBと次の五の和音の副五になっている。
つまり、こういう展開を変えるところでさりげなく緊張感のある和音を配して、見事に流れを
回収している。また、Amajorにしてはシャープの多い色彩に引き戻しているという面もある。

そのようにして5〜8小節も解決に向けて展開していきますが、そこからさらに、9小節目が
4分の3! ここは付点4分音符の連続である種のシンコペーションにしているのかなあと
思いきや、ここでも1拍少ないんですね。こんなことやるの、Paul Simonくらいですよ。
今度やってみたいなあと、ちょっと思ってしまいました。そのくらい見事。しかも、後半の
8小節も前半と同じコード進行なのに、ここで力点が変わるので、ドラマツルギーが変化して
後半が宙ぶらりんの印象を残す感じになる。具体的には、11〜14小節のBmからDのコードで
一まとまりと感じるようになる。それで15・16小節が付け足しのような。それがまた、次の
ブリッジにつながるように出来ているんですけどね。

その後、アウトロのようなパートに行きますが、私はここをブリッジと捉えています。
その理由は後で明かしますが、ここのパートのコードはこうなっています。
 |A|C♯m|F♯m|B|

ここでは4小節であっさり終わっています。少しカントリーフレイバーになっているのも
次への予告編のような趣がありますね。

そして、ここから再びバースが始まるのですが、今度は1回目のBのコードでは4分の3に
ならず(ここでのフェイクな節回しも素晴らしい。それを聞かせるためにフツーに戻している
のでは、と思われる)2回目のBのコードのところで4分の3になっているんです。全く
油断がならないですね。後、2回目のEのコードのところ(9〜10小節目)で、ウーリッツァー
がE→D♯→Dと半音ずつ降りているフレーズも印象的ですね。これは一種のクリシェでして
10小節目のEが属7になるのがポイントです。

そして、2回目のコーラスはフツーに過ぎ(ここでのフェイクの入った歌唱も素晴らしい)
その後、件のブリッジに突入するわけです。前回は4小節でバースに戻りましたが、ここでは
延々とエンドレスで続き、そのままフェード・アウトしていきます。つまり、この曲の後半は
ひたすらここのパートが続いていくわけなんですよ。2コーラス・プラス・長いアウトロ。
みたいな構成ですが、ここで「Mama don't take my Kodachrome away」というフレーズを
ひたすらリピートしていくので、ここも重要なパートと考え、ブリッジとしています。

といっても、音楽構成的にはここは単純でして。A→C♯m→F♯mを繰り返すのみなんです。
そして、途中からややテンポも速くなっていき、ピアノがずれのポリリズム的に同じ音を乱打
するとか、だんだん演奏的に盛り上げていく(それと共にカントリー色が強くなる)という
つくりになっています。個人的に面白いと思うのは、ヘンなところに入るクラッシュ・シンバル
ですね。良く聴かないと聞き落とすので、注目して聴いてみて下さい。

この「僕のコダクローム」、実は「コーンヘッド」というお笑い映画にも使われておりまして。
コーンヘッド星人が子供が出来て子育てに勤しむ姿を、この曲をバックにPV風に撮影している
シーンだったのですが、PV出身の監督らしく、このシーンだけ出色でしたね。映画自体は
非常にくだらなくて好きですが。(私バカバカしい映画にこういう音楽的なシーンが突如
入るのがツボみたいです)

次回は、アメリカン・ロックの大御所に行きます。Bruce Springsteen を特集します。曲は
当然「Rosalita (Come Out Tonight)」でしょう。知らない方は事前に聴いておいて下さい。
出来ればライブ音源も聴いておいて欲しいな。ひっくり返るで!
posted by なんくい at 10:57| Comment(0) | 音楽理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月29日

Hip Hopをさらに表通りに進めるために

今日の記事はウォーム・アップ的な側面もあります。Hip Hopについては
次にメチャ重い記事を用意していますので、その前に軽い記事を一つ。

数年前からは考えられない現在のHip Hopの状況。その状況を分かっているか
のような新譜が立て続けに出ているので、紹介したいというのがこの記事の趣旨です。

先ずは我らがRHYMESTER。今回の新譜はいい意味でカルい。リード・トラックがこれ。


前作がとてもとても好きな身としては、その内容を踏まえてのこれなんだ、という
ことは強調したいところなんですが、大事なのはそういうことじゃないんだよな。
カジュアルに、そしてより開かれた場所へ。それが今のHip Hopに必要なことだと
いうこと、なんですよね。

それを強く感じたのが、メジャー第1弾となるサ上とロ吉のリード・トラック。
(ミニアルバムでデビューという形なので)


今のフリースタイル・ブームの最前線にいる彼がこれを出してきたことの
重みを噛みしめたい。てか泣きそうだよこれ。SKY-HI日高くんを呼んで
これか(何でも出来ちゃう子だからね!)と思うなかれ。今こそ彼の
ネーム・バリューやスター性を使いつつも、Hip Hopを表通りへ、という
覚悟が現れていて、本当に感動しました。曲としても非常にいいと思う。
(私、ポップスには点が辛いですから。その私が認めるんだぜ!)

この流れとつながるなあと思うのが、少し前に出た、なんとキックの活動再開。
そのリード・トラックがまたこういう感じなんですよ。


今のフリースタイル・ブームをKREVAはどう思っているのだろう・・・と気になって
いましたが、その答えがこのキック再開劇なのでは、と勝手に盛り上がってしまった
のですが。(実際は何年も前から布石を打ってる、わけだよね)その復活の挨拶がわりの
曲が、やはりこういう表通りを闊歩するトラックになっているわけですよ。(キックは
そこに「満を持して」という威風堂々さも入っているのですが)このブームに乗っかり
たいという姑息さでなく、このブームを契機にHip Hopをさらに表通りにプレゼンして
いきたいという、いわばシーンへの責任がこういう曲を作らせているのだと思うんですよ。

もちろんヘビーでドープなやつも大歓迎なんですが今これをやることの意味を、私は
断然支持したいですね。
posted by なんくい at 11:05| Comment(0) | 音楽とは | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月25日

「ホンモノの音楽」を体験した!

1か月もごぶさたしてしまいました。こんなに長く空けるのって初めてかな。
まあぼちぼち再開しますので、見捨てないでね。

今日は、一昨日見に行った京都音博について書きますね。忙しい中でもこういうのは
抜かりなく見に行ってるんですよ。たまたま仕事が空いたので、これは見に行かなきゃと。

というのも、岸田さんは今回の音博を「ホンモノの音楽ちゅうものをお見せします」と
言っていて。何でも、フル・オーケストラを招いての歌謡ショーだとか!

いかに今回の試みが革新的かというと、ちょっとタイムテーブルを見て頂きましょう。
タイムテーブル―京都音楽博覧会2017in梅小路公園

ここでの3組目、ブラジルのAlexandre Andrés & Rafael Martiniから早くもオーケストラが
登場。いきなり変拍子という難易度の高いポップスが展開されたのですが、それを力技で
聴き手を説得し倒す。それは、フル・オーケストラを配した立体的な音像(と共にドラムの
屋敷豪太さんの力も大きい。ジャズのセッションみたいなシーンもあったよ)が大きい
と感じました。(今回のようなフルオケ装備の音源。ゼッタイ世界中で売るべき!)

そしてくるりもフルオケ装備版。それはライブアルバム(DVDも出てる)でも披露されて
いるので、目新しさはないと思われるかも知れません。ですが、かのライブ盤でハイライト
だった「ワールドエンド・スーパーノヴァ」が、今回さらに進化していたことからもバシバシ
感じました。当然オーケストラによる音楽としての豊かさだけでなく、エレキギターの官能
もあり、音博では定番となっているジャンルの横断によるスリルもあり。もうお腹いっぱい
と言いたくなるほど豊饒な音楽をたらふく浴びた後、「ここからが今年の音博のグランド・
フィナーレですよ」と。そう、豪華な歌い手を招いての歌謡ショーが始まるのです。

火曜ショーはGotch〜田島貴男〜UA〜布施明〜二階堂和美というラインアップ。その楽曲も
半分ほどくるりの岸田さんが譜面を書き(あと半分はチェロの徳澤青弦さん)という意味
では、これもくるりによる形を変えた「表現」なんですよ。それも、非常に斬新なアレンジの
「接吻」から、UAのアバンギャルドな面をフューチャーしたり、かと思えば布施明さんには
ど真ん中歌謡曲というテイストで聴かせる。最後が二階堂さんというのも凄かったね。映画
「かぐや姫の物語」の主題歌「いのちの記憶」でしんみりさせておいてラストにサンバ調の
「お別れの時」を持ってくる辺り、確かに今年の音博のハイライトでした。

そして、最後の最後に、アンコール的にくるりがフルオケ装備で「奇跡」を演奏し。本当に
奇跡のような今年の音博は幕を閉じました。いやあ、行って良かった。もちろん、以前
記事にしたような試みは今年も行われていて、焼きそばやカレーは大盛で頂けましたし、
お茶も無料で飲めました。

「ホンモノの音楽をお聞かせする」なんて大言壮語だと思う方もいるかも知れません。ですが、
一昨日その場を目撃した人ならみんな思うでしょう。彼らには、それを口にする資格がある。
posted by なんくい at 12:08| Comment(0) | 音楽とは | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする